「火をもって」miniTua-wind ensemble 委嘱作品
miniTua-wind ensemble 2nd Concert(2023年7月8日、三鷹市芸術文化センター)で、大村萌樹さんに小編成吹奏楽のための新曲を委嘱し、初演を行いました。
プログラムノート
自分の中で、火を灯し続けることが重要であるように思う。大事なものとは何だろう?
今回の作品では、人の内側で起こっている心理的なエネルギーを表現できないか考えてみた。それは、必ずしも外側に現れてこない。
活動のもつエネルギーをそのまま表現し、かつ何かに導かれているような一定した形式に落とし込めないかを模索したものとなった。
一般化できないような、言葉にするとむしろ勢いの質が変わりそうな、内発的なものが中心となる。
音楽の構成という面においては、しかし同時になめらかに展開するという課題に向き合ってみた。というのも、一度に自分の中に現れたものとの間に、後から関連性を思いつくことができるかもしれないからだ。あるいはないのかもしれない。
どちらにしても、大地を踏みしめているような感覚を表現してみたかった。自分はここにいる、というような。宣言という形でなくてもよい。自分の中で秘めていても、それははっきりした道標になりうる。
題名は「火をもって」。何かを追い求める理由はなんだろう?それは各々の中に自分なりの火が灯っているからに他ならないからであるように思う。または、その火を持ち続けられるようにとの願いを込めている。
(大村萌樹)
作曲者インタビュー
今回の楽曲の聴きどころはどこですか?
聴きながら気づいたら違う場所にいるようなところではないでしょうか。その場その場で、似ているようで違った和音を感じてみてもらえたら幸いです。
あとは、具体的な話にはなってしまいますが、低音楽器が活躍するところと、さまざまなミュート(弱音器…金管楽器につけて音色を変化させる)を使うのでそこも楽しみにしておいてください。
「小編成吹奏楽向けの楽曲」を作ってみて、率直にどんなことを感じましたか?
とても楽しく筆を進めました。と同時に、どの曲も書く時の特有の困難さはあります。
今回の場合は、自分の中にある音の響きのアイデアを、どのようにその場限りの音に展開していくかが挑戦でもありました。例えば、ある響きのアイデアがあった時、どの楽器の組み合わせだと一番そのアイデアを活かせるか、などです。その結果、自分の中で鳴っている音響と実際に音になった際の想像を常に行き来することとなりました。こればかりは、絶対的な解答はなく、常に一つ一つの音に向き合って考え続ける必要があるため、難しい点だと思います。しかし、手探りで音を実体化していくそのプロセスこそが、何かを作ることの醍醐味であるのかもしれません。
今後の「小編成の吹奏楽」について、作曲家の立場からどんな可能性があると思いますか?
機会によって、さまざまな考察が考えられますが、例えば、地域の学校での合同演奏や自分たちで準備を行う定期演奏会など、それぞれが固有な学びの機会になることと思います。活動の形態によって音楽活動の充実感が変わらないよう、それぞれの編成や場に即した方法を考えながら演奏の機会を持ち続けていくことが願いです。
作曲者から(公演当日の話から)
タイトルにある「火」とは一体何か――。
私が日々生活していて実感するのですが、人と話していても、実は「自分は10年後にこれがしたい」「20年後にこういう生活をしていたい」「こういう自分でありたい」ということを人に話す機会がないと感じています。
そこで、自分の中での自信や目標、大事なもの、何より躍動感を持ったものを音楽で表せないかと思い、「火をもって」という題名をつけました。
メロディが様々な楽器で次々と現れるので、変化がとても多い曲です。その変化を耳で追いながら楽しんでいただきたいです。
大村 萌樹●東京都出身。これまでに作曲を郡司敦、林達也、鈴木純明、金子仁美の各氏に師事。2018年、フルート・ホルン・トロンボーンとピアノのための《ミニシアター》がユーディ・メニューイン音楽学校、および英国王立音楽院にて演奏される。市川市文化振興財団第4回即興オーディション優秀賞受賞。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を卒業後、現在東京藝術大学音楽学部作曲科4年次に在学中。(2023年7月現在)